LIXILメンバーズコンテスト2022

Interview
前川建設(株)

経験と信頼の積み重ね 暮らしに寄り添う”幸せな木の家づくり”

リフォーム部門大賞 受賞者インタビュー 前川建設(株) 前川桂恵三さま

2022年、リフォーム部門グランプリを受賞した「M様邸古民家再生 伝統と先端が和する家」を手がけたのは、兵庫県にある前川建設(株)。チーフオフィサーの前川桂恵三さんに、今回の受賞作やコンテストへの想いなど、お話をうかがいました。

新築部門 大賞作品「M様邸古民家再生 伝統と先端が和する家」

老舗企業で立ち上げたリフォームと注文住宅事業

家業の中に、住宅事業という新しいページを切り拓いてきた前川さん。
建築にかかわる多種多様な書籍や資料に埋もれるように、今日も研究と挑戦を続けている。

前川建設は明治40年創業で、115年の歴史ある会社。子どもの頃から家業を身近に感じ、将来は建築の仕事に就くだろうとなんとなく思っていたという前川さん。大学で土木を学び、のちに設計も勉強して建築士の資格を取得。総合建設業の前川建設は個人住宅を手がけていませんでしたが、前川さんは設計をやりたいという思いから、15年ほど前、果敢に住宅事業部を立ち上げました。

「最初はリフォームからはじめましたが、慣れないうちは苦労が多かったです。現場調査に時間がかかっていたし、見積もりを出したあとでシロアリが見つかってお客様の予算を超えてしまい、大幅に調整が必要になったことなど、いろんな困難を経験しました」と当時を振り返ります。

経験を重ねるうちに知識が蓄えられ、今では家を見るだけで、どう対応すればいいのか大体イメージできるようになったそう。リフォームの実績が増えると、徐々に新築の相談も受けるようになり、新築事業をはじめることに。そこで立ち上げたのが、注文住宅を手がける自社ブランド「幸木之家(こうぼくのいえ)」です。暮らしに寄り添う“幸せな木の家づくり”をモットーに、オーダーメイドの家づくりを提案しています。

「新築もリフォームもお客様との信頼関係が大切です。そのためにも細かい対話と確認を怠らないようにしています。そのうえで、“お任せします”と言ってくれるのが理想。昔に比べると、だいぶ任せてもらえるようになってきたと思います」と前川さん。

コンテスト受賞が信頼に!お客様の見る目が変わる

コンテストは住宅事業をはじめた頃からいろいろ参加してきたそう。
「賞を取るまでリフォームは設備の入れ替えの依頼が多かったのですが、とあるコンテストで最優秀賞を受賞してから、間取りを変えるような大がかりなリフォームの依頼が増えました。賞を取った施工事例の写真を見て、こういうのもできる会社なんだと評価してくれ、その結果、心強いプロモーションにもなりました」と話します。

このような実体験から、前川さんはコンテストの重要性を感じ、毎年、賞を取ることを目標に、社員ともモチベーションを共有し、率先して動いているそう。

「設計する人はコンテストに出したい気持ちはあると思いますが、日常業務に追われているうちに、気づいたら応募期間を過ぎているということもあります。みんなが動きやすいように、応募する物件を決め、挑戦するようにしています」と前川さん。

コンテストを見据えてデザインのレベルを上げるため、前川さんは普段から様々な建築関連の本や資料を読んだり、研修を受けたりと勉強熱心です。休みの日には、好きな建築家・吉村順三さんが手がけた旅館に泊まりに行くなどして刺激をもらっているそう。

「じつは学生時代、親戚の住む吉村順三さんが設計した家を訪れたとき、すごいと思った記憶があるのですが、住宅事業をはじめて数年後に改めて訪れたら、そのデザインの素晴らしさに感動しました。親戚の家は私の建築に対する原風景かもしれません」と話します。

前川さんの原点ともいえる偉大な建築家、吉村順三設計の親戚の家。
写真は、社員とともに研修旅行で訪れたときの1枚。

自らの目で見て感じるために訪れた、佐賀県嬉野市の旅館、大正屋さん。こちらも吉村順三さんの作品。

同じく吉村順三さんの作品である京都の俵屋旅館にも訪れ、建築を体感して学んだ。写真は2階のアーネストスタディ(書斎)。

歴史と物語が詰まった古民家 残すところを取捨選択

グランプリ受賞作、「M様邸古民家再生 伝統と先端が和する家」の図面、CGパース写真。

数あるコンテストの中でもレベルが高く、チャレンジしがいがあるというLIXILメンバーズコンテスト。今回の物件に対して、前川さんは最初からグランプリを意識していたそう。

「施主様の曽祖父の家で、20年前から空き家だったのですが、解体するには惜しいということでリフォームの依頼がありました。一族の歴史と物語が詰まっていて、素晴らしい素材やデザインが残っていたので、表現できることが多いのではないかと思いました」と前川さん。

「伝統と先端が和する家」という作品名のとおり、新しくする部分と、そのまま残す部分の取捨選択がリフォームのカギに。

「断熱をするには素材を変える必要があるのですが、古民家ならではの歴史ある味わいがなくなってしまうのはもったいないので、区画整理をしました。日常的に使う部屋はしっかり断熱をして、主に来客専用となる茶室の壁や窓は断熱をせず、元の素材をそのまま残しました」と話します。

沓脱石(靴脱ぎ石)を庭のベンチとして使うなど、現場の職人たちの意見で決まったことも多く、飛び石に「関守石」(日本庭園などで見られる、この先は立ち入り禁止だと示すために置かれる石)を置いたのは、前川さんのアイディアだとか。

「私は茶道が趣味で、古くから伝わる日本文化を取り入れたいと思ったんです。書院造りの和室を現代でも楽しめる空間にするために、炉(ろ)を切って(湯を沸かす囲炉裏を作ること)茶室にし、庭には四季の茶花を植えました。さらに、気がついたらYouTubeで関守石の作り方を調べて、現場にあった丸石を使って自分で手作りしていました」と前川さん。

自信作となった今回の物件は、施主様にも喜ばれ、今でもときどき家で過ごしている写真を送ってくれるのだと嬉しそうに教えてくれました。

付書院(つけしょいん。右奥にある床の間脇に張り出した棚)などがある書院造りの和室を生かした茶室。奥中央には炉が切られている(=畳の色が違う四角い部分)。

写真右下に置いてあるのが、関守石。左には、庭のベンチとして残した沓脱石(靴脱ぎ石)が見える。

1行に言いたいことを凝縮 審査員の評価が自信に

LIXILメンバーズコンテスト2022で発表する前川さん。
プレゼン準備で、設計時に参考にした書籍を読み直したりしながら、より分かりやすく伝える工夫を凝らす。そのことで、自らの考え方も整理できたそう。

今回、最終候補の3社に残ったこともはじめての経験で、プレゼンにも力を入れたそう。準備に取り掛かったのは、授賞式の2カ月ほど前から。過去のコンテスト動画などを見返したり、設計時に参考にした書籍を読み返したりしました。そして、プレゼン資料は1枚につき1行の文章がわかりやすいと思い、短い文章に言いたいことを凝縮させるため、しっくりくる言葉を探しました。

授賞式では、審査員の方に直接コメントをもらえることがよい経験になったと話します。
「”変えるところと変えないところの思い切りがいい“という評価は、自分たちがこだわった部分を的確に言葉にしてもらえてありがたかったです。いろいろ悩んだ庭のことも褒めていただき、これでよかったんだと自信になりました」と話します。
住宅事業をはじめて15年。コンテストで施工事例を発表することが、仕事の幅を広げるきっかけになっていたという前川さん。グランプリ受賞を機に、今後はリフォーム、新築に加えて、古民家再生も事業の1つになっていきそうです。

前川桂恵三
前川桂恵三

前川建設(株)住宅事業責任者。一級建築士、趣味は茶道。早稲田大学卒業後、大林組、松下政経塾を経て、前川建設に入社。入社後、住宅事業部を立ち上げ、「暮らしと心を快適に」を理念に、LIXILリフォームショップ ライファ加古川、ライファ神戸西神の2店舗を経営。新築事業では、自社ブランド「幸木之家」を立ち上げ、「幸せな木の家づくり」をモットーに注文住宅の設計施工を行う。2019年より伊礼智氏主宰のi-worksに加盟し、2023年i-works5.0モデルハウスをオープン。