LIXILメンバーズコンテスト2022

Interview

土地の魅力を引き出す、心地よいデザイン

新築部門大賞 受賞者インタビュー Livearth × 大橋利紀建築設計室 大橋利紀さま

2022年、新築部門グランプリを受賞した「暁の家」を手がけたのは、岐阜県にある「Livearthリヴアース」(株式会社リビングプラザ)。
代表取締役社長の大橋利紀さんに、家づくりのこだわりやコンテストへの想いなど、お話をうかがいました。

新築部門 大賞作品「暁の家」

学生時代の旅で感動した名もなき職人の建物

バックパックで世界の多くの建築物に触れた大学時代の大橋さん。写真は中国の雲南省。

大橋さんが建築業界を目指したきっかけの1つは、実家が工務店だったこと。子どもの頃から職人さんの姿を見ていて、素材からものを生み出すことの面白さを感じていたそう。進路を決めるとき、漠然とものづくりの仕事に就きたいと考え、大学は建築学科を選択します。

「デザインに興味があってなんとなく選んだのですが、いざ勉強してみたら、建築の奥深さに夢中になり、なんて魅力的な世界なんだと思いました」と大橋さん。
大学時代、バックパックで世界中を旅して各国の建築物に触れ、心を打たれたことがあったそうです。

「名建築や名だたるデザイナーが作った家具も素晴らしかったのですが、それ以上に感動したのは、各国の名もなき職人たちが作った家や建物です。その地域の風土に合った素材が使われていて、デザインに必然性があり、とても美しいと感じました。そのときの体験が今の仕事の理念につながっています」と話します。

同じくバックパックで訪れたモロッコ。
名もなき職人たちが作った、風土に根ざした家や建物の美しさに心を打たれた。

お客様のための家づくりを軸に日本版エコロジー住宅を研究

受賞作『暁の家』をバックに社員との記念写真。実家の工務店に入り、新築事業部を立ち上げた当初は、研究と実務のため、ほとんど寝ない日々が続いたとか。

大学卒業後、建設会社に就職。理想と現実のギャップに苦しんだこともありましたが、設計や現場監督の経験を積み、自分の理想を押しつけるのではなく、“お客様にとっていい家”を作ることが大切だと気づかされたと言います。

20代後半で実家の工務店へ戻った大橋さんは、お客様のための家づくりをしようと新築事業部を立ち上げます。それまではリフォームがメインの会社だったので、試行錯誤しながら少しずつ注文住宅の実績を上げていきました。2014年にはドイツとスイスに視察に行ってエコロジー建築に感銘を受け、日本でもエコロジー住宅を取り入れようと研究を決意します。

「ドイツやスイスは当時の日本では考えられないほど、すべてが進んでいて驚きの連続でした。気候も文化も違う日本で、どうしたらエコハウスが作れるのか、いろいろな研究者の元を訪ね歩いて意見を聞き、研究を続けました。工務店での実務もやりながらだったので、睡眠時間を削るしかなくて……。その頃はほとんど寝ていないかもしれません」と当時を振り返ります。

新ブランド立ち上げ!こだわりの家づくりを提案

地元の自然素材への愛着。地産地消への思いも深い大橋さん。写真は桜の木で作ったテーブル。このほかに花台なども製作したそう。

2018年、大橋さんは少ないエネルギーで快適に暮らせる木の家づくりを提案する新ブランド、「Livearthリヴアース」を立ち上げました。リヴアースで大切にしていることは、「長く住み続ける程に深みの増すデザイン」。大学時代に旅先で感動した、名もなき職人たちが作った建物のような普遍性が、大橋さんの目指す理想でした。
耐震や室温など家の性能を数値で表して“見える化”することで、お客様へ安心感を与え、光の入り方や風の動きなど、その土地の魅力を最大限に生かした心地よい空間づくりを実現。また、“庭のない家は設計しません”といった大胆な「やらない宣言」も打ち出しました。

「家の外観は地域に何らかの影響を与えています。庭(植栽)があると、家からの眺めがよいだけではなく、そこを通る人がほっとできる空間になります。こういう家が増えていけば、街全体が心地よい風景になると思うんです」と大橋さん。

家の材料は風合いのよい自然素材を使い、地元の木材で家具や小物も作るのもこだわりの1つ。

「桜の木で玄関先に置く花台を作ったり、杉の板でウッドデッキを作ったり……。材料として量は多くないのですが、お客様に“あの山の木ですよ”とお伝えすると愛着を持ってもらえるし、少しでも地産地消に貢献できれば」と話します。

大橋さんは家づくりのコンセプトや考えを講演会やSNSなどで積極的に発信しています。そのため、想いに共感したお客様が来てくれて、根本的なズレはないそう。

「当社の建物は、そのお客様のためにイチから作る1点ものです。だからこそ、打ち合わせは時間をかけますし、要望は全部聞いて一度受け入れます。もちろん全部実現するのは難しい。前向きに精査して取捨選択しなくてはいけないのですが、基本の想いを共有できていれば、最終的にはお任せしますと言ってくれる方が多いです」と話します。

コンテストに挑戦し続ける意味 地域の工務店の役割

建物はもちろん、庭にも力を注いだ暁の家の設計図。

2016年頃からさまざまなコンテストに参加していたという大橋さん。LIXILメンバーズコンテストでは、2017年にエコロジー賞、2018、2019、2021年に地域最優秀賞を受賞しています。

「新築事業部を立ち上げたばかりの頃は実績が少なかったので、まだ何者でもない会社にとって、第三者の評価は信頼に値します。特にLIXILメンバーズコンテストは業界の中でも歴史があり、参加者数も多くてレベルが高い。そこで評価してもらえることは自信につながりました。審査員の方は褒めるだけではなく、建築に愛があるからこその厳しい言葉も言っていただけるので、自分たちでは気づかない視点を得ることができてありがたいです」と話します。

そして2022年、ついに新築部門でグランプリを受賞。受賞してからは反響が大きく、お客様の期待感が上がったのを感じるそう。ただ、グランプリで一区切りという気持ちはなく、コンテストは挑戦し続けることが大切だと言います。

「今回の受賞作もそうですが、最初からコンテストに出そうと思って建てるわけではなく、応募期間にタイミングが合う物件を出しています。時代と共にお客様の要望も変わり、家づくりの表現も変化していくので、更新されていく表現を発表する意味でも、コンテストに参加することは大切なんです。それに、お客様のほとんどは新規。新規の方は最新の情報を調べるから、たとえば5年前にグランプリを受賞したといっても過去の話ですよね。もちろん何度も賞を取れるわけではないですが、毎年実績を作る必要はあると思っています」と大橋さん。

その土地のよさを知っている地域の工務店にしか生み出せない価値があるはずと話す大橋さん。グランプリという結果に満足することなく、工務店ができる上質な家づくりを極めるため、次に向かって進んでいます。

LIXILメンバーズコンテスト2022、グランプリ受賞直後の大橋さん。受賞の喜びとともに、結果に満足することなく、その目は未来を見据えている。

大橋利紀
大橋利紀

Livearth(リヴアース)代表取締役社長、株式会社大橋利紀建築設計室 代表。2014年にドイツ、スイスにてエコロジー建築を学び、日本版のエコロジー住宅の模索を決意。2018年、新ブランドLivearth(リヴアース)を立ち上げる。2019年、本質改善型リフォーム独立ブランド「リヴ・リノ」を設立。雑誌取材や講演の依頼も多く、SNS等でも積極的に発信。2022年NHKワールド・NHK BS1出演。