LIXILメンバーズコンテスト2023

Interview

唯一無二の里山風景が活きる”内と外の繋がり”がある家に

新築部門 グランプリ
グランプリ 受賞者インタビュー​ 株式会社 サンハウス 野辺裕章さま

2023年、新築部門グランプリを受賞した「庇護の家(常陸太田の平屋)」を手掛けたのは、茨城県水戸市にある株式会社 サンハウス。
代表の野辺さんに、受賞作のこだわりや今回のコンテストへの想いなど、お話をお伺いしました。

新築部門グランプリ「庇護の家(常陸太田の平屋)」

地域にあるモノ・ヒト・コトで目指す「足るを知る」家づくり

昔からお付き合いのある大工の方々とは、設計や建築の意匠を学ぶために一緒に研修に行くことも。

1983年に茨城県水戸市で創業したサンハウス。現在代表を務める野辺さんは、茨城県で生まれ育ち、創業者である父から会社を引き継ぎました。茨城県の歴史や魅力をよく知る野辺さんは、生まれ育ったその地に根付いた、町に必要とされるような“住まいの専門家”のようでありたいといいます。

「私たちの会社は父の頃から2、3人でやっていて、今でもモデルハウスや営業スタッフが充実していたり、費用をかけて広告宣伝をしているということもありません。人を増やして商売を広げるという考えもあるのでしょうけれど、私としては自身の目の届く範囲を保ちつつ、地に足がついた住まいづくりを大切にしたい。それは、ビジネスの規模だけでなく家のデザインを考える際も同じです。今はネットやSNSなどにいろんな建築デザインの情報が溢れているじゃないですか。でもそれらを無理に意識したデザインをすることはありません。それよりもお客様のお話を聞き、この方にとっての住まいとはなんだろうという本質を見極めた家づくりを心がけています」

地元の茨城で学んだ自然と共存する感性

野辺さんが飼っている柴犬とフトアゴヒゲトカゲ。茨城のお客さんは自然や動物好きの方が多く、ペットの話で盛り上がることもあるそう。

茨城観光マイスターの認定者でもある野辺さん。豊かな自然や動物が身近だった茨城県で育ったからか、住まいづくりにおいて建物だけを考えるのではなく、その外の自然環境を取り込むような設計を大切にしていると語ります。

「地域にはそれぞれ、その土地ならではの物語があります。住まいづくりにおいて、建物と土地の環境を分断しないように心がけています。それに茨城にお住まいのオーナーさんって、自然や動物が好きな方が多いんですよ。『庇護の家(常陸太田の平屋)』の施主さんも爬虫類が好きだったりして。私もたくさんのペットを飼っているので、動物の話で盛り上がることもありましたね」

審査委員長の伊礼先生に影響を受けた”家と外との繋がり”を大事にした設計

野辺さんがこだわりたかったという、家の中にいながら外の風景を楽しめるようなリビングの設計。

「実はこのような住宅作りを心掛けるようになったのは、今回のコンテストの審査委員長をされている伊礼 智 先生からの影響が大きいと思っています。というのも、私が建築士を志したばかりの時に、伊礼先生の書籍でたくさん勉強をさせていただきました。“家と外との繋がり”が大事だということを伊礼先生は書籍で記されておりまして、自然が身近にあり周囲の環境を意識しやすい土地で育った私にとって、その考えはとても共感できるものでした」

そのように自身の家づくりの原点を教えてくださった野辺さん。今回の受賞作は野辺さんが影響を受けた“家と外との繋がり”を大切にする家づくりが実践された作品だと言います。伊礼先生を含む審査員の方々がどのような評価をされるのか。それを知るという点でも、今回のコンテストは自身にとっても大きな挑戦だったと語ります。

室内に里山風景を取り込み外観は山の稜線をイメージ

左上、左下の写真を見ると、山の稜線をイメージして屋根をデザインしたことがわかる。右写真からは、近隣住宅と馴染むような屋根勾配で設計されていることが見て取れる。

今回グランプリを受賞した野辺さんの作品は、茨城県常陸太田市の「庇護の家」と名付けられた平屋です。阿武隈山系の裾野を望み、市の特産品である蕎麦の畑が広がる里山の地に建てられました。

「依頼主はご夫妻とお子さん2人を含む4人家族。この町で生まれ育ったオーナー様ご夫妻とここで育つ子ども達が、この土地だけにしかない美しい里山風景と向き合って暮らしていける家を作りたいと言う想いがありました。東側にとても大きな蕎麦畑があって、秋になると綺麗な花を咲かせます。また、その奥には阿武隈山系の山並みを望むことができます。そんなこの場所だけにしかない美しい風景を眺めながら暮らせるような住まいを計画しました」

美しい蕎麦畑(左写真)を家から望めるように、あえて窓やリビングが東側に向くように設計。

本作において野辺さんは、外の風景を取り込み、周囲の環境と馴染む家づくりを目指したと語ります。

「ダイニングの窓は風景を取り込むべく大きく開放的に設計し、また随所ですっきりとしたデザインのLWトリプルの窓を使って、家の中からまるでトリミングして飾られた景色を眺められるようにしました。朝日が上り、蕎麦畑の花が咲く美しい風景を見ながら過ごして欲しいなと。屋根にもこだわっていて、山の稜線と馴染むようにあえて段差をつけたり、屋根勾配自体も近隣の住宅と合わせた角度にしています。また、オーナーさんからのご要望で、焼杉を外壁に使用したのも、どこか温もりある外観を後押ししているかと思います」

断熱設計を徹底し、広い室内でもキッチンのエアコンのみで夏冬を過ごすことが可能に。

また、寒さの厳しいこの地域での暮らしを考え、断熱性にもこだわったとのこと。

「構造や断熱材配置の工夫を徹底して、断熱等級7を実現しました。温熱・空調管理はキッチンに設置したエアコンだけで十分なほどです」

このように、住む人の暮らしを庇うだけでなく、地域の風土をも護るような家にすべく、「庇護の家」という名前を付けたと野辺さんは言います。

建築のセオリーからあえて脱し信念を貫いたコンテストへの挑戦

「実際、建築的に見るとイレギュラーな点もあるんです。南側に窓を向けず、東側にしていたり。ただ、個人的にはこの場所にしかない里山風景を活かし、それを楽しめる家にしたかった、だから蕎麦畑のある東側に窓を向けたのです。今回グランプリをいただいたというのは出来過ぎかもしれませんが、もしかするとそのように貫いた自分の信念が多少は評価いただけたのかなと思います」

受賞後は多くのお祝いのメッセージが届き、SNSで受賞投稿をした後はインスタグラムのフォロワーが1万を超えるなど、かつてない反響があったと野辺さんは言います。しかしそれ以上に、家での心地よさや景色に癒されながら暮らしているというオーナー様からの声が最も嬉しかったとのこと。自身の信念を貫いた建築へと最大のエールを得て、これからも自分が信じる住まいづくりを野辺さんは続けます。

野辺裕章 野辺裕章
野辺裕章

株式会社 サンハウス代表。茨城県水戸市にて生まれ育ち、創業者である父の後をつぎ、サンハウスの代表へ。地主向けの集合住宅など、不動産業としての取り組みが多かった先代とは異なり、抜群の設計力で提案住宅を多く手掛け、本格的な家づくりを行うように。一級建築士だけでなく、茨城観光マイスターや水戸歴史文化検定の資格を得て、茨城県の魅力を広く発信。茨城建築文化賞、日本エコハウス大賞の受賞歴も持つ。