LIXILメンバーズコンテスト プレミアムサロン2023
LIXIL本社にて、
「プレミアムサロン2023」
を初開催
〜Livearth大橋利紀氏による特別講義、
ワールドカフェ 編〜
2023年10月、「LIXILメンバーズコンテスト」の歴代受賞者など、選ばれた方々をご招待して初めて開催された「プレミアムサロン2023」。前編では、特別ゲストにお招きした建築家の伊礼智先生、三澤文子先生の貴重な講演の様子をご紹介いたしました。
後編となる今回は、「LIXILメンバーズコンテスト2022」の新築部門グランプリを受賞した、Livearth(リヴアース)代表取締役社長 大橋利紀氏による特別講演、さらにイベント終盤で講演テーマをもとに行われた対話交流「ワールドカフェ」の様子をご紹介いたします。
講演 03 大橋利紀氏
大橋利紀氏「地域の工務店の価値と存在意義」
大橋利紀氏
- Livearth(リヴアース)代表取締役社長、株式会社大橋利紀建築設計室 代表
- ドイツ、スイスにてエコロジー建築を学び、日本版のエコロジー住宅の模索を決意。2022年に手がけた「暁の家」で、LIXILメンバーズコンテスト2022の新築部門グランプリを受賞。
混迷の時代に、注文住宅をつくる意味
今回は、工務店という皆さまと同じ目線から、「地域の工務店の価値と存在意義」についてお話していきたいと思います。
現代は、原材料の高騰が進み、電気代も上がるなど、さまざまな危機が同時多発的に起こっている混迷の世紀へ突入しています。住宅需要の絶対数も減少していて、単身世帯が増加。核家族のための、幸せな新築住宅の供給という神話は緩やかに崩壊しているでしょう。
二極化が深刻化し、中間層が新築住宅を購入できない時代となり、我々工務店の55%が赤字を抱え、倒産数も増えているという事実があります。人ごととは思えない状況で、皆さんもいろんな思いの中で経営されているんじゃないかなと思います。
そんな中で工務店経営を継続するため、「我々が注文住宅をつくる意味とは?」という問題提起をしたいと思います。ここを明確に自覚しておかないと、規格住宅でいいということになってしまいますよね。
「設計力」が重要な、注文住宅
注文住宅が提供する価値は、「機能的な価値」と「意味的な価値」の2類に分けられると思います。
「機能的な価値」は、定量的な均衡点をみつけ、効率を求めるもので、コスト&パフォーマンスと言えますね。
「意味的な価値」は心が動く感覚的なもので、人が豊かに暮らし生きていける、大きなきっかけとなるものなんじゃないかと思います。
どの層に訴求するのかで変わってくると思いますが、実用的な部分(機能的な価値)と、潤いと豊かさ(意味的な価値)を実現できる割合と、素量が変わってくると思います。
いずれにせよ、どちらの価値も「設計力」が重要となります。
設計とは、ある理念や哲学にのっとって、様々な要素を合理的に検討し、形にしていく作業だと思うんです。例えば、耐震・温熱・維持管理・長寿命・コストやお客様の好みも含め、総合的に扱っている。ですので、例えば断熱だけ、というようにたった一つの要素のみにフォーカスするというのは良くないですし、耐震だけとかいうことでもなく、科学的な知識だけに偏って設計することも違うと思います。合理的な設計というのは、情感的な価値も含めたものかなと思います。
そして設計とは、「やること」より「やらないこと」を決めること。無限にある可能性の中から、可能性を一つ一つ潰していく作業だと思います。やらないことを決め、やるべきことのみを実行する。
そこで大事になるのが、企業理念や哲学をもとに、あらゆる取捨選択を連続的に行っていくということで、その結果としてその会社としての「物語」が形成されると思います。その物語が共感されるか?深みがあるか?必要とされるか?は、ある意味設計にかかっているんじゃないかと思います。
工務店にとっての「物語」とは?
工務店にとっての「物語」とは、自分たちの「美意識やこだわりの集積」とも言えるものです。自分たちの「物語」を持ち、お客様の要望を聞きすぎない。
「大衆が良いと思うもの」で、「とても魅力的なもの」は、あまりないと思うんです。みんなが良いと思うものを集めていくと、否定する人は減るんですが、本質的な魅力は失われるんじゃないか。
目指すは、その物語がないと、成立しない所まで高めた美意識です。それは写真にも写ると思うんです。そんな「物語」が、存在意義や他社との違いを生み、独自のブランドを形成するんじゃないかと思います。
そしてその「物語」を直接的に、お客様に伝える業種は「設計」と「営業」です。同じ物語を語っても、上手に語ればいいというだけではなくて、語り手が本気でその物語を信じているかどうかが大事だと思います。自分の心が動いていないのに、他の人の心を動かすことはできないですよね。
これが出来れば、結果として真似できない(しにくい)部分での、価値付ができるのではないかと思います。
事例紹介〜「光陰の家」2つの庭と豊に暮らす、
月見台のある平屋〜
北側にある桜と、北東の空の抜けを切り取るコーナー窓を設置。畳のあるリビングに。キッチンから見ると、同時に北側の庭と南側の庭の両方が見える。南側の庭は芝生も広範囲に敷くなど、アクティブに作っており、走り回れる。
キラリと輝く、
スモールエクセレント工務店に!
小さくともキラリと輝く企業(スモールエクセレント工務店)は、時代の変化の中でも常に社会に必要とされるはずです。また、スモールエクセレント化した工務店は、競合することはありません。それはそれぞれが独自の物語を持ち、別々の価値を持つからです。
「どちらが良いか?(比較検討)」でなく「何が好きか?(価値感の相性)」で選ばれるんですね。
価値観が多様な社会では、前提条件が多様なため、答えは複数存在します。何でもやるのではなく、自社の理念に則って、自社なりの哲学と解を持ち、それに相違がある場合、時には断る力も必要になるでしょう。
成熟化し、縮小する現代社会では、年齢によらず常に変化に対応し、価値を創造し続ける必要性があります。学び続け、実践し続けることは必須である社会です。経営者はより困難な選択に迫られています。
情報やノウハウは買うことが出来ますが、「意思」は売っていません。すべては、経営者の意思次第です。意思をもとに思考と知性によって行った経営者としての決断は、不確実な未来に対する“賭け”です。だからこそ、“決死の覚悟”の決断をする必要があります。決断なくしてブランド化は不可能です。
『ブランド』とは、他とは違う個性であり 「個人(経営者)の主観(個人の強い思い)からくる哲学」です。「経営者の意思」をもって、不確実な未来に向かって、今を生きていきましょう!