LIXIL MEMBERS CONTEST PREMIUM SALON 2025

LIXIL メンバーズコンテスト プレミアムサロン2025

LECTURE 02

住宅の長寿命化と既存住宅改修
~環境負荷の少ない持続可能な住環境づくりを目指して~

三澤 文子 先生

建築家 / エムズ建築設計事務所 代表取締役
LIXIL メンバーズコンテスト リフォーム部門 審査員長
1956年 静岡県生まれ

「改修」への思い

今日は「改修」についてお話しします。リフォーム、リノベーションなど様々な言葉が使われていますが、私はあえて「改修」と呼びます。古い建物を活かしながら性能を補い、暮らしを再生していく──その本質を最もよく表す言葉だと考えているからです。
そんな「改修」を体現したのが、滋賀県甲賀の農家住宅です。お母さんが一人で暮らす住まいについて、息子さん夫婦は「寒くて危険だから建て替えよう」と考えていました。しかしある工務店の改修見学会に参加して建物を残せる可能性を見出されました。相談を受けた私は、耐震も断熱もきちんとできること、性能向上の改修が可能であることを丁寧にお伝えしました。結果として建て替えではなく改修を実施。それから10年ほど経ちますが、性能の向上した暖かく安全な家で快適に暮らされています。
改修に関しては、2006年に岐阜県立森林文化アカデミーで「木造建築病理学」の講座を立ち上げ、約20年、改修設計の考え方を育てる活動にも取り組んでいます。当時は新築志向が強く、改修に関心を持つ工務店は多くありませんでしたが、「壊しては建てる時代は終わる」と伝え続けてきました。そして先般、改修10事例をまとめた『「過去との対話」をデザインする 三澤文子の住宅改修の仕事』が上梓の運びとなりました。
改修のプロセスを整理した解説も収録しています。

新刊『「過去との対話」をデザインする 三澤文子の住宅改修の仕事』(建築資料研究社)は、三澤先生渾身の一冊。前書きと後書きもぜひ読んでいただきたいとのこと。
法改正~これからの改修~

ご承知おきの通り、2025年4月の法改正により、木造住宅の「大規模な修繕・模様替え」が建築確認申請の対象になりました。主要構造部の半分以上を改修する、2階建て以上または延べ床面積100㎡超の住宅が対象です。ここでの主要構造部とは、壁、柱、梁、床、屋根、階段のことを指し、基礎は含まれません。少し違和感があります、防火中心で作られた昔の法律の名残です。そして重要なのは、延べ床面積100㎡超の場合には建築士の設計・監理が必須となることです。この潮流は、私たちが「木造建築病理学」に基づく改修設計方法開発で目指すところと同じ方向性にあり、改修の質を確保する仕組みが整い始めていると感じています。
一方で、現場はまだ過渡期にあります。たとえば、建築申請の要否に関して役所と私で見解が異なることも経験しています。構造計画をきちんと行うのはもちろん、現時点で申請不要と言われた場合にも、いずれ手続きが必要になった際に円滑に対応できるよう現況調査報告書を綿密に整えるようにしています。

「丸福町家」 BEFORE
「丸福町家」 AFTER

性能向上改修:耐震・断熱・気密をどう高めるか

改修において、最初に取り組むべきは耐震です。香川県丸亀市の「丸福町家」では、評点を0.08から1.6へと大幅に改善しました。しかし業界全体を見渡すと、耐震のビフォー/アフターをきちんと提示している事例は驚くほど少ない状況です。
耐震診断をしなければ「どれだけ良くなったか」が分からなくなります。確認申請は、少し良くなれば合格となるかもしれませんが、本来求めるべき安全性能とはギャップがあります。だからこそ適切な診断が欠かせません。
「丸福町家」では、悪い地盤への対応として基礎を新設し、断熱性能(UA値)は3.98→0.44へ改善、気密はC値1.8を確保しました。準防火地域にも対応できる外壁構成とし、将来の申請必要時にもまったく問題のない仕様となっています。こうした “将来のための設計” は改修ではとても大事な視点です。ともあれ、改修でもここまで性能を引き上げられるという好例です。

「丸福町家」 AFTER 耐震性能・耐力壁
「丸福町家」 温熱性能
家の物語を引き継ぐということ─改修の価値と魅力制

改修後の「丸福町家」は、大きな作業テーブルとキッチンを備えたワンルーム空間になり、勉強会やワークショップにも使える場所になりました。階段は、かつておばあさんが転倒された急な階段を緩やかなものに作り直し、安全性も大きく向上しています。
夜の町家を道から見ると1階は格子越しに室内の光がこぼれ、2階の窓の奥には堂々としたトラスが見えます。「今の大工さんにもこんな技があるんだ」「昔の大工さんはこんな技を使っていたんだ」。まちを歩く人が、そんなことを感じてくれるかもしれません。また、壁に残されていたレリーフは、施主のおばあさんの弟さんが大工見習いだった頃に刻んだ「蟇股(かえるまた)」だと分かりました。家には歴史や記憶が刻まれており、それを未来へつなぐのも改修の大切な役割です。
改修の現場はそれぞれ状況が異なり、課題も答えも毎回違います。そのぶん圧倒的に面白く、やりがいがあり、完成時の達成感は大きいものです。建物を生かし、地域の歴史を生かし、住まい手の思いを未来につなぐ。そして環境負荷を減らし、社会の資産を次世代へ引き継ぐ──改修の仕事は、今後ますます重要になります。ぜひ皆さんもこの魅力的な領域に関わり続けていただきたいと思います。

※蟇股:伝統的木造の用語。横木に設置し、荷重を分散して支えるために、下側が広くなっている部材。

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