LIXILメンバーズコンテスト プレミアムサロン2024
トップランナーが集う、
LIXIL メンバーズコンテスト
プレミアムサロン2024」開催
22024年12月2日(月)、LIXIL本社(東京・大崎)の会議室NIGIWAIにて、
「LIXIL メンバーズコンテスト プレミアムサロン2024」を開催しました。

「LIXIL メンバーズコンテスト」は、LIXILが事務局を務め、全国で14,000社以上(2022年3月時点)の工務店様、リフォーム店様が加盟するボランタリーチェーン「Good Living 友の会」の会員様を対象としたコンテストです。1991年の開始以来、お客様にとっての“いい住まい、いい暮らし”をいかに実現するかを競う、業界最大級の住宅施工例コンテストとして発展してきました。
プレミアムサロンは、この「LIXIL メンバーズコンテスト」において、優秀な成績を収められ、コンテストの質の向上にご貢献いただいたトップランナーの会員様をお招きする特別の場として、2023年より開催しています。ワンランク上の情報はもちろん、トップランナー同士の情報交換や関係構築の場、さらにはサードプレイス(心地よい場)となることを目指しています。
第2回となる今回は、「LIXIL メンバーズコンテスト」で優秀な成績を収めた全国17社の住宅事業者様から、24名が参加されました。
開会に際し、LIXIL Housing Technology営業本部・田口和敏本部長が登壇。「日本の住宅文化や町なみを豊かにするという志のもと、今後も継続して地域のトップランナーが集うサロンとして発展させていきたい」との力強く語りかけると、会場は大きな拍手に包まれました。
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今回はどのような会になるのかと、
期待を胸に開会を待つ参加者様。 -
挨拶に登壇したLIXIL Housing Technology
営業本部・田口和敏本部長。
和やかな雰囲気のなか、特別ゲストとして招いた建築家の伊礼智先生と三澤文子先生による講演がスタート。両先生の示唆に富んだお話は、続くワークショップでの活発な議論にも大きな影響を与えました。参加者から多彩なアイデアや意見が寄せられ、業界の発展に向けた取り組みについて、知識と情報を共有する貴重な機会となりました。


特別ゲストとしてご講演いただいた
建築家の伊礼智先生(左)と三澤文子先生。
ここでは、伊礼先生と三澤先生の講演内容を紹介いたします。
設計の標準化から生まれる豊かな住まい
注文住宅(受託)から規格住宅(提案)へ

伊礼智氏
- 建築家/伊礼智設計室 代表
- LIXILメンバーズコンテスト 新築部門 審査員長
- 1959年 沖縄県生まれ

大変な時代だからこそ取り組む3つのこと
住宅事業者にとって大変厳しい時代になりました。新築住宅の着工数は減少し、予算超過は当たり前。職人不足の問題もあります。また最近は、SNSを中心に情報が氾濫し、その情報に施主も設計者も振り回される場面が増えているのではないでしょうか。
更に働き方改革。私の設計事務所では、労働環境の改善に長年取り組んでいます。一方で今回の働き方改革が、設計する住宅の質に影響を与えないか不安を覚えるのも事実です。
様々な課題があるなかで、私の設計事務所が取り組んでいることは大きく3つです。
2つめは規格住宅です。2012年からi-worksを展開しています。
ル・コルビュジエやフランク・ロイド・ライトもそうですが、一品生産の住宅を設計しながら、規格住宅にもチャレンジする建築家は少なくありません。それに規格住宅を設計しないと分からないこともあります。失敗が許されない規格住宅は、プロダクトの世界で、常に改良・改善を続ける必要があります。だから、その両方に関わることは、建築家にとても大切なことです。本日は、それについてまず前半でお話しします。
3つめは簡素な設備による高性能化です。10年以上前から意匠と性能の両立に取り組んできて行きついたのが、簡単な設備でも性能は高められるのではという考えです。これは後半でお話しします。
講演最後に自邸について少し触れます。原点に戻って小さい住宅にチャレンジしました。その過程で気づいたこともお話しできればと思います。


規格住宅をより深化させる
まず、規格住宅「i-works」についてです。私の設計事務所では、分譲住宅の仕事をきっかけに、長年設計の標準化に取り組んでいます。最初は部屋ごとの標準化からスタートして、それらを深化させて、家一軒まるごと標準化する「i-works」を展開しています。
i-worksは、4間角、3間×5間、6畳のコンパクト離れなど、基本の形を持つ規格住宅です。それらをベースに、施主からの要望や敷地や周囲の環境に合わせて工務店がカスタマイズし、こちらからも提案して完成を目指すという仕事の進め方です。
ルールは2つ。骨格は変えないこと、そして構造材には指定のJAS認定無垢材を使用すること、です。それ以外の仕上げ材や設備は自由。現在、全国50社以上の工務店と提携・展開しています。
i-works1.0からスタートし、最新バージョンはi-works5.0です。南北方向3間、東西方向5間の30坪で、2階リビングと1階リビングの2タイプがあります。単純な形ですが高性能で、気持ちよく暮らせるようにデザインしています。本日はi-works5.0の2タイプを紹介します。


i-works5.0の基本設計図
2階リビングタイプで紹介するのは、兵庫県加古川市の前川建設のモデルハウス「iworks5.0前川モデル」です。OMソーラーの全館空調システム「パッシブエアコン」に、全熱交換換気システム「PAtH(パス)」を組み合わせています。


前川モデル外観。外壁に使用した塗り材は、伊礼先生が開発に関わったもの。(photo by 西川公朗)


2階リビング。仕上げは基本自由。壁にも、伊礼先生が開発に関わった塗り材を使用。調湿・消臭機能に優れている。(photo by 西川公朗)
1階リビングタイプで紹介するのは、「i-works5.0松尾モデル」。島根県松江市に事務所を構える松尾工務店のモデルハウスです。2階を自社オフィス、1階をモデルハウスとしたプランです。空調はパッシブエアコンのみ。換気は第三種です。


松尾モデル外観。玄関の通称「i-works引き戸」は、伊礼先生が広島のユダ木工と共同で開発をした木製玄関引き戸。気密はT-3と最高レベルで、高性能住宅でも使用可能。(photo by 西川公朗)


1階リビング。家具は伊礼先生のデザイン。右上のガラリはパッシブエアコンの冷房吹き出し口になっている。(photo by 西川公朗)
両モデルともプランはほぼ変わりません。ただしi-worksでは、敷地や周囲の環境、見える風景に合わせたカスタマイズが重要だと考えています。開口部の位置を変更した場合は、構造計算をし直しています。i-works5.0は現在、これらとは全く違うプランで2物件進行中です。今後は、性能をより向上させる計画です。例えば断熱材は基本自由ですが、G2、G2.5くらいの標準仕様を検討しています。
簡単な設備だけで住宅は高性能になる
次に、簡素な設備で高性能化にチャレンジした2事例を紹介します。
最初に紹介するのは、「i-works1.0秋田バージョン」。i-worksの最初のモデルに下屋をかけ、現地工務店の断熱材の入れ方を採用した建物です。i-worksは、2024年に入ってから各地域の工務店の手法を取り入れた「ご当地バージョンプラン」を手掛けています。本日紹介する建物以外でも、石川県、香川県、宮崎県でプロジェクトが進行中あるいは完了しています。
この建物は壁掛けエアコンと第1種換気だけで全館空調をして、UA値は0.28。ベースプランからの大きな変更点は、和室とその横のパソコンコーナーデスクを設けたことくらいです。あと、開口部の仕様を少し変更しています。


秋田バージョン外観。秋田スギなど地元の建材を多く使用している。(photo by 西川公朗)


左側のガラリ部分は、ベースプランの腰窓から掃き出し窓に変更し、台所から庭へのアクセス性を高めている。(photo by 西川公朗)
2つめの事例は、「i-works1.0北海道バージョン」です。外観を見ると、同じ規格住宅でも使用する仕上げ材などで印象が大きく変わることがお分かりいただけるかと思います。


北海道バージョン外観。地元にこだわり、北海道産の建材をふんだんに使い、地域で活躍する家具デザイナーやランドスケープデザイナーと共創した。(photo by 西川公朗)


1階リビング。大開口からは庭の緑が眺められる。(photo by 西川公朗)
建物の敷地は、札幌市の北東に位置する当別町です。数年前まで夏でも冷房なしで過ごせましたが、近年はそうはいかず、小屋裏エアコンとパッシブ換気を組み合わせて、室内の温熱環境を整えています。
パッシブ換気は、北海道科学大学工学部建築学科の福島明教授が考案した、機械に頼らず建物内外の温度差を利用して換気をする手法です。今回は、パッシブ換気のゆっくりとした上昇気流と、小屋裏エアコンから落とす冷気の流れをうまく共存させて、室内環境を快適に保てるように計画しました。上昇する気流と喧嘩しないように、小屋裏エアコンの冷気を落とし口は大きめにとるなど工夫しています。いまのところ非常にうまくいっています。


矩計兼システム図。造付けの家具に吸込み口や吹出し口を設けて、壁内ではなく床を経由して空気を移動させるようカスタマイズしている。


1階リビング。大開口からは庭の緑が眺められる。(photo by 西川公朗)
小屋裏エアコンの冷気の落とし口。ガラリの周囲には立ち上がりつけている。東京大学大学院工学系研究科の前真之准教授から、冷気を一度ためて、溢れた冷気を順次落としたほうがいいとのアドバイスを受けたため。(photo by 西川公朗)
実際にパッシブ換気に取り組んでみて、まだまだ改良の余地がたくさんあると感じました。いま、少しずつチャレンジしています。
長く住み続けていくために、難しくない住まいをつくりたい
最後は私の自邸です。まだどこにも発表していません。
パッシブデザインの極意は、近所に迷惑をかけないように小さく建てることです。この家でもそれを実践しています。
外皮性能はG2。耐震等級3+α。敷地が私の大好きな下町密集地なので、準耐火構造です。旗状敷地の延べ床32坪の敷地に建つ、延べ床25坪の住宅です。平凡なプランですが、自邸なのでこれでいいと思っています。
隣地との境界には、メンテナンス性などを考慮して、緑化フェンスを採用しました。ランドスケープデザイナーの田瀬理夫さんの考案した製品で、造園家の荻野寿也さんに緑化してもらいました。
私の最近の大きなテーマは、住む人がきちんとメンテナンスできる家をつくることです。そのため、この家では壁掛けエアコンを一般的な使い方のみで全館空調をしています。断熱材にセルロースファイバーを使用したことで、温度が非常に安定しており、真冬でもほぼ無暖房、裸足で過ごせています。よほど寒いとき以外エアコンは使用しません。
シンプルに設計する一方で、細部では色々と工夫しています。例えば、私のプランでは横長の窓が多いのですが、空気の動きを考えたときに、どのくらいの幅が最適かを検討しました。
リビングの壁掛けエアコン上に空気のリターン口を設けたのも、ちょっとした工夫です。空気は大きく回すのがエアコンをうまく使うコツです。実際に生活して、割と空気が動いていることが確認できたので、次回はリターン口もう少し大きくしようかと思っています。


まとめます。本日お話ししたことは、言い換えると、自分らしい設計を標準化して、価値観を明確化して、それを繰り返し改善することです。今後も、住宅の規格化・標準化から得た良い影響を、一品生産の設計に反映させ、共に更に深化させていきたいと思います。