LIXILメンバーズコンテスト プレミアムサロン2023
講演 02 三澤文子氏
「住宅のロングライフ化と既存住宅改修」
三澤文子氏
- 建築家・住宅医/有限会社 エムズ建築設計事務所 代表取締役
- LIXILメンバーズコンテスト リフォーム部門 審査員長
- 1956年 静岡県生まれ
基礎をあきらめない
岐阜・小さな町家の改修
今回は既存住宅の改修について、実際に手がけてきた事例をご紹介しながらお話します。
岐阜市の街中、一等地にある「ふくまちや」。おそらく築150〜60年になる町家を、50年の定期借地権を結んで改修しました。
もともとすごく可愛らしい町家で、戦前は木材の倉庫として利用されていたものが、改修を繰り返して、しもた家のような風情を持っていました。
改修前は、賃貸住宅。大家さんは地主さんで、信長がいたような時代から続いている家の方でした。
改修を頼まれたのはその大家さんではなく、店子さん。住宅の場合は50年定期借地権が使えますので、自由に改修していいと言われて、この辺りで使える補助金を使って店子が改修をされました。

改修の場合、私たちはまず調査をして診断をして、既存の状態を明らかにして、こういう形で改修した、とどれだけ性能が変わったかを明らかにしていきます。
調査の結果、もともと2階には窓がなかったのですが、もったいないことに十分な小屋裏がありました。一方床下を見ると、かなりひどい状態。床下空間がなく、潜ることができませんでしたが、いろいろな方法で見て、判断しました。
また、この建物は基礎がひどい状態でした。大正か昭和の始めくらいに曳家をした形跡があって、玉石とかブロックとかいろいろな基礎形状が混在していました。
そこで、コンクリート基礎を新設していきます。
揚屋や曳家をしようとなるとお金もかかるし、それこそ定期借地権で借りている家主にそんなお金は出させられないので、そのままの状態で基礎を作る独自の方法を実施していきます。
基礎ができれば耐震設計ができます。
改修後は、壁量が3倍くらいになり、新築同様の耐震設計ができています。
依頼主は漆芸家で、教室をやりたいとのお話でしたので、もともと1階は6畳間がただ繋がっていたところを、奥の方に増築して、漆芸教室を1階でやり、2階を住宅にするというプランを提案しました。


改修後の図面を見ると、断面に関しては、断熱材をしっかり入れて、ここで基礎が入っているのがわかります。
改修の場合、改修前は隙間風などがありますので、過去の評価方法ですが、換気を評価できるQ値で測って比べています。

ここは観光客も多いところなので、道路側から見た景色ではあえて開放的に、中の漆教室も見えるようにしています。町に顔を出しているというか、お店を出しているという意識で、中が覗けるように作っています。
小屋裏などには古い木材も残しながら、新しい梁材なども補強しています。こういう形で2階のもったいなかった小屋裏を室内化して、空間を大きく取っています。
玄関の可愛らしさはそのままに。入ると漆教室が見えるようになっています。この床板は漆教室の生徒さんが杉板を漆塗りしたものです。私も漆が大好きなので、こういう方法をよく取っています。
この改修は2012年に行いましたが、灯りが入るとますます可愛らしい建物になりました。
岐阜の観光地のメッカと繋がった場所で、本当に観光客が多いですし、これから先、海外の方もこういう街並みを好んで、日本って素敵だなと思ってくれるんじゃないかと思うんです。だから、私は「古いものを残す」ということをしたい。
先ほどの可愛らしい外観のように、良い建物はたくさんあるので、それは残していきたいと思います。
日本の風景を創る家並みから、
既存住宅改修を考える

田舎を走っているとよく見る風景ですが、こんな中に新しい、風景を壊すようなものができると、情けなくなってしまいます。この古い建物の良さを感じ取って、新しく作るんだったらやはり風景に調和するような建物を作ってもらいたいし、建物が古いから寒い、使いにくいということだったらぜひ私に言ってください!と思います。暖かい空間で、健康的に暮らせる。そして高齢になっても使いやすくて、幸せだと思ってもらえるような改修ができます!と言いたい。この風景を壊したくないんです。
人工減少の未来に向けて地球との共存を


日本人の平均寿命が長いのは素晴らしいけれど、支援が必要な高齢者も多い。高齢者の住宅内事故は増加しているし、暑さや寒さで健康を崩して寝たきりになるという構図は、社会問題だと思います。
「住宅を良くする」ということは、社会問題の解決の一翼どころか二翼くらい担っている。住まい手の要望を聞いてただ「ステキ」にする改修ではなく、真面目にリフォーム・リノベに取り組んでもらいたいです。
既存住宅の改修について、最近は5つの柱を唱えています。
- 「1.既存住宅の調査・診断をおこなう」
- 調査はしても、診断は案外しないもの。耐震診断だけでなく、断熱などの診断もぜひしてもらいたいです。
- 「2.耐震性能の向上を目指す」
- 「3.断熱性能+省エネの向上を目指す」
- この2本柱はひどいと命に関わります。耐震と断熱の性能をとにかく上げてください。
- 「4.改修プランニングでは、バリアフリーの意識を」
- 使いやすい、片付けやすい、気持ちよく暮らせる。誰もが使いやすいデザインを。
- 「5.劣化対策+メンテナンス容易性に留意する」
- 例えば床下に潜れないと、詳細がわかりません。メンテナンスの容易性に留意した設計をしましょう。
これからはどんな職業も「サステナブル」と「リレーションシップ」が重大なキーワードになると思っています。皆さま方もぜひそんなテーマでお仕事をして頂きたいと思います。
まとめ
伊礼先生も三澤先生も、建築や住宅に対する非常に熱い思いを語ってくださいました。参加された皆さんも、時折スライドを写真に収めたり、メモを取ったりしながら前のめりになって話を聞いていたのが印象的でした。
<後編>では、昨年コンテストで新築部門大賞を受賞されたLivearth(リヴアース)代表取締役社長の大橋さんの講演レポートを中心にご紹介いたします。ぜひご覧ください!
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