LIXILメンバーズコンテスト プレミアムサロン2023
LIXIL本社にて、
「プレミアムサロン2023」を
初開催
〜伊礼智先生、三澤文子先生の
特別講義 編〜
2023年10月17日(火)、東京・大崎にあるLIXIL本社会議室NIGIWAIに全国から「Good Living 友の会」の会員様が集まり、「LIXILメンバーズコンテスト プレミアムサロン2023」を初開催いたしました。

「Good Living 友の会」の会員様が、お客様にとっての“いい住まい、いい暮らし”をいかに実現したかを競う、「LIXILメンバーズコンテスト」。30年以上の歴史があり、多くの会員様のご参加により、ハイレベルな作品が集う業界最大級の住宅施工例コンテストに成長してきました。
「プレミアムサロン2023」は、そこで受賞された皆様へ意見交換の場を設けることで、コンテストをさらに盛り上げると同時に、皆様のビジネスにもプラスにしていただければという思いで、開催する運びとなりました。
初回となる今回は、コンテストの歴代受賞者など、選ばれた25名の方々をご招待。
リラックスした雰囲気の中で、住宅業界のレベルを高め合う仲間として、特別ゲストにお招きした建築家の伊礼智先生、三澤文子先生を交えて情報を共有する、有意義な場となりました。
このレポートでは、伊礼先生、三澤先生の貴重な講演を特別にご紹介します。
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スタート前、名刺交換を行う参加者の皆さん。
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同業者ならではの連帯感がある、
和やかな空間。


講演 01 伊礼智氏
「町と家の「あいだ」を考える
〜沖縄の外部空間から学ぶ〜」

伊礼智氏
- 建築家/伊礼智設計室 代表
- LIXILメンバーズコンテスト 新築部門 審査員長
- 1959年 沖縄県生まれ
沖縄の外部空間は
「やわらかな境界・ゆるやかな繋がり」
住宅一軒でも、町に良い影響を与える、良い影響を連鎖していけるような存在になれればと思って仕事に取り組んでいます。今日はそういった思いで自分がやってきた仕事を見て頂きたいと思います。
僕は沖縄の出身なので、沖縄の外部空間の話から入ります。

35年以上前に行った伊是名島という島には、「銘苅(めかる)家住宅」という重要文化財になった家がありました。あまり直線がなく、道と壁の境界も雑草が生えていて曖昧。みんな曖昧に、ゆるやかに繋がっている。これが沖縄の外部空間の特徴の一つだと思います。
皆さんも塀を作る時に(敷地)ギリギリに作って、中の方に木を植えたりすると思います。
僕はもったいなくても1mくらいずらして建てて、塀の外にも木を植えるというのを昔からよくやるんです。
すると、町と家がゆるやかに繋がる感じがして。
そうやって境界を少しずらすという操作で、ずいぶん町と家の親和性が良くなっていくんです。

これは学生の頃のスケッチですが、直線とか平面がなく、ゆるやかにうねったり曲線が混じったりして、雑草などが生えて境界が溶けていく。「中と外が馴染んでいく様」っていうのが、若い頃からの沖縄の原風景のイメージです。
言葉にまとめると、沖縄の外部空間って「やわらかな境界・ゆるやかな繋がり」。そういう設計を、今でもできるだけ取り入れるようにしています。
4つの役割を持つ、
「ヒンプン」という環境装置
次にお見せしたいのが、沖縄本島にある重要文化財「中村家」などで見られる、「ヒンプン(屏風)」と呼ばれる塀です。
沖縄の民家は台風を避けるために石垣で囲まれていて、(中国の風水の影響を受けて)入り口だけ南から入る作りになっています。
入り口から入ると、切り取った塀が奥に置いてある。それが「ヒンプン」なんですが、その役割というのは、一つ目は目隠しです。
湿度も気温も高く、夏場は雨戸も全部開け放して屋根と柱だけしかないような空間で、風をたくさん通さなくちゃいけないんですが、これで覗かれないようになっています。

二つ目は、魔除けです。中国の風水だと魔物はまっすぐにしか進めないと言われていて、その魔物を跳ね返すための装置なんです。屋根の上にはたいていシーサーがいて、ヒンプンとシーサーで魔物を避けているという感じですね。
三つ目は、昔は男の人とお客さんは右側から一番座へ、女性は左側から台所へ、とアプローチする道が違っていた。人の動きを振り分ける役割を果たしていたのがヒンプンでした。
もともと、この三つがヒンプンの役割とされていましたが、僕は「ヒンプン」が町と家をゆるやかに繋げている装置なんじゃないかと思うようになり、これを勝手に四つ目の役割だと考えるようにしていて、今では地元でもその考え方がわりと定着してきているように思います。
だから単純な塀ですけれど、四つの機能を持っていて、これがなくなると沖縄の外部空間がすごく間抜けな感じになる。
ヒンプンは、明確な結界ではないんですね。ヒンプンのところまではウェルカムだけれど、そこから奥は、用のない人はお断りという感じ。そういう曖昧な空間を、今でもやりたいなと思っています。
雨端(アマハジ)という
ソトとウチの「あいだ」
もう一つ沖縄の外部空間で重要なのが、「雨端(アマハジ)」と呼ばれる、軒下空間です。ここが沖縄の文化ではとても重要で、先ほどの「ヒンプン」が町と家の間を司る装置だとしたら、この「雨端(アマハジ)」が外部と内部の間を司るような空間だと思います。
雨戸を開け放つと、もう外部と内部がゆるやかに繋がります。子供にとってはここが遊び場で、大人にとってはおしゃべりをしてお茶を飲む、コミュニケーションをとる場でもあるんです。


良いなと思うとスケッチを描いて測ってみるんですが、例えば「中村家」の場合はお金持ちの家なので軒が高いんです。しかしグランドレベルをだんだん上げていっているのでいやらしくない。軒が高くてもグランドレベルの捌き方で帳尻を合わせられる、デザインをまとめることができるっていうのは、ひとつの発見でした。
事例紹介〜町と家の関係を考えた住まい〜

「守谷の家」。庭の緑を散らしながら、家の後ろの遊歩道に繋げていくという設計に。家はできるだけ小さく、低く(しかしそう感じさせない工夫をして)抑え、裏まで抜けて見えていながらも重要なところはヒンプンのような目隠しを作って見えない作りにした。

「下田のゲストハウス」。2階のバルコニーを大きくし、沖縄の雨端空間の展開形のようにした。家の中をくり抜き、8mくらいの木を入れたことで、2階にいても、1階にいるかのように感じられる。遠くが見えるところに窓を置き、開放的に暮らせる作りに。

「琵琶湖湖畔の家」。琵琶湖側に庭を大きく取り、風景に溶け込んでいく設計に。家からも町からも車は見えず、風景がそのまま繋がっていく。湖畔の植物を庭に植栽したことで植生の繋がりも。塀は地面を掘ったら出てきた石で、沖縄の民家のような石積みにした。
「設計ってどれだけ外部を
取り入れるかでしょ!」

10年以上前、哲学者の野矢茂樹さんが仰っていてその通りだと思い、以来大事にしている言葉です。先祖帰りというのか、50歳くらいから僕の設計も「沖縄の民家みたいになってきている」と言われるようになりました。これからも閉ざすような設計ではなく、窓を開けたくなるような設計をやっていきたいと思っています。